大学のネットワーク

今月から、東京大学 大学院総合文化研究科 情報ネットワークアドバイザー という肩書をいただいた。

大学院総合文化研究科というのは、分かりにくいのだが、教養学部の教官の所属で、実際には教養学部すなわち駒場キャンパスの情報ネットワークに関するアドバイザという立場である。

私は、1982年から1995年まで、教養学部に助手(当時は、文部教官助手、現在では助教にあたる)として在籍した。その間、教育用計算機センターのシステム更新と、教養学部へのセンターの設置、学内ネットワーク(UTnet)の建設などをお手伝いした。

1984年に JUNET の実験が始まり、WIDE Project の開始が 1986年であるので、ちょうど日本のインターネットの草創期であり、私はこの仕事をしたあと、東大を辞めて、日本でのインターネットプロバイダの草分けである IIJ (インターネットイニシアティブ)の立ち上げに加わった。

そういう時期に作られたのが東大の学内ネットワークの原形であり、インターネットは大学にしかなかった。大学のネットワークとそれを結んだ日本のネットワークこそがインターネットの原形であった。

さて、そういう時期にできた東大の学内ネットワークは最先端のものであり、私たちがオペレーションしていた最高のネットワークであった。もちろんその時期としてはである。 大学の学内ネットワークは当時は大学にしかこの種のネットワークがなかったということもあるが、大学内のコンピュータ資源を共有する環境として整備することが基本的な目的である。

その後も東大のネットワークは数年ごとに更新され、現在もそれなりに規模と機能を持っているが、基本路線は同じだし、物理的なネットワークを自営で建設するので、トポロジーもそう大きく変わっていない。

しかし、この間に大学の外、すなわち一般社会でおこったインターネットの普及と利用の変化は比べ物にならないほど大きなものであり、大学でのネットワーク利用など特別なものではないものとなってしまった。

むろん、大学では依然ネットワークの研究に携わる人々や、ネットワークを活用して研究を行っている人は多く、超高速、高性能のネットワークが必要とされている。しかし、それ以上に社会インフラとして成長したインターネットは、日々の業務から教育からなにからなにまで使われ、必要とされるものとなっている。

全ての大学人、学生にとって、欠くべからざるものになったインターネットは、私たちが作って動かした学内ネットワークとは期待されているものが大きく異なってきていると思われる。

理学部や、法学部など専門学部では、ある程度ネットワーク利用に対する意識がそろっていると思われるが、東大教養学部というところは、1,2年生が全員在籍するいわゆる他大学でいうところの教養課程の役割を独立して担っており、全ての分野の教官が先ほどの大学院組織として在籍している他、非常に多くの非常勤講師の先生方がかかわっている。

今回私がお手伝いをすることになったのは、こうしたネットワークのユーザのサポートが追いつかないので、何かよい手立てはないかということであった。それだけ、ネットワークが多くの人にさまざまな形で欠くべからざるものとなっている証拠である。

私は、かねてより日本のインターネットの運用は世界最高水準であると言っているが、大きな発展を支えてきたいわゆるプロバイダは優れた運用を行っている。こうしたプロバイダにサポートの部分だけを手伝ってもらうという手がなくはないが、現に運用しているプロバイダのネットワーク設備と、大学のネットワーク設備ではエンドユーザをサポートするとい観点においては大きな差がある。

現在のインターネットでは、さまざまな脅威が存在している。コンピュータウイルス、不正アクセス、DDos 攻撃、スパムメール等々。プロバイダはこうした問題に対して対策するための監視、管理機器を導入したネットワークを構築している。これに対して、大学のネットワーク、特に東大などのネットワークでは完全に透過的なネットワークをサービスするということが、やはり基本にあり、こうした問題に手厚く対応するということは行っていない。研究用のネットワークであり、あくまでこうした問題に対して対応するのはユーザの個々の事情において行うべきというのは、当然であるのだが、問題は件の教養学部のユーザ層と、サポート体制である。

それなら、一層のこと学内のネットワークを一般の家庭等と同じようにプロバイダのサービスを直接持ち込んでしまうという考え方はできないだろうかと思っている。むろん、研究用のネットワークが必要な研究者は現状のネットワークを使えばよい。

このやりかたをすると、メリットがたくさん生まれる。大学には、共同した研究であったり、学会、会議などで外部から来訪する方も多い。こうした人々も今の時代どこでもインターネットを使いたいと思うのは当然である。しかし、現実はこうした人々にネットワークコネクティビティをサポートするだけで、数名のスタッフが完全に忙殺されているというのが事実となっている。ならば、一般のプロバイダ、無線LANのホットスポット同様に学内でインターネットを利用できる環境が提供されていれば、そのために特別なサポートをする必要がなくなる。

いまや、学生は入学してからインターネットを使い始めるのではなく、入学前からインターネットは使っているし、役立てている。これも同様に自分が自宅で使っているのと同じようにラップトップや、PDAで使うことができるようになる。

大学がインターネット環境が一段優れているという時代ではなく、いまやどこででもインターネット環境を求めることができるにもかかわらず、大学内は特別なネットワークが作られている。専門的研究機関であるなら、それは別にして、駒場キャンパスのネットワークはそうした一般のインターネットプロバイダの提供する環境をみんなが求めることができるほうが望ましいのではないかと考えているわけである。

今後、さまざまな調査を行い、実現の可能性を探っていくことになる。これが私の肩書のわけである。

最終更新日: $Date: 2009-11-09 16:17:55+09 $

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