インターネットの電子メール(1)

インターネットの電子メールについては、大量のマルウエア、Spam メールのために大きな問題がある。しかし、電子メールはインターネットにとって、最も基本的なサービスでもある。問題をすこしでも明らかにするために、その歴史的な経緯をたどり考えてみようと思う。

1991 年にDonnalyn Frey と Rick Adams によって書かれた !%@:: A Directory of Electronic Mail Addressing and Networks という本がある。動物の絵の表紙で有名な O’Reilly のシリーズの1つであったのだが、当然現在は絶版となっている。 この本は、世界の電子メールのアドレスと、そのネットワークについて解説したもので、最初の、!%@:: というのは、電子メールアドレスを表現する記号である。現在の電子メールは、username@sample.com というように、@1つで区切られ、右側がドメイン形式のアドレス、左側は一般にユーザ名が表記される。これに対して、この1991年当時は、世界の電子メールではいろいろなアドレス表記がされていたのである。

! は、UUCP で使われたソースルーティングのアドレス表記で、hostB!hostA!user というように中継するホストを順番にならべて表記した。一般には、よく知られている中継ホストを起点として、..!uunet!siteb!sitea!hisname というように書き、ここにメールを出す場合には、自分からその有名ホストまでの経路を追加して、hostz!hosty!uunet!siteb!sitea!hisname というように書いてメールを出した。 これが、インターネットの電子メールがバケツリレー方式で送達されると言われた所以である。

次の%は、ゲートウエイ指定で、意味としては @ と同じなのだが、user%hosta@uunet.uu.net というように使われる。これは、まず、@uunet.uu.net まで(ゲートウエイ)、そこで今度は、user@hosta と書き直して、配信が行われる。@uunet.uu.net では、hosta の存在を知っているが、送信者のシステムでは、@uunet.uu.net は知っているがその先は分からないという場合に使われた方法である。同様に、siteb!sitea!user@uunet.uu.net という表記もよく行われた。

:: という記号は、DECNET (DEC社の独自のネットワークプロトコル) で使われた表記で、やはり host::user という書き方がされた。DECNET は、物理学の研究者の間でよく利用されていたもので、そのため、初期の研究・学術ベースのインターネットの時代にはよくつかわれていた。

日本では、1984年に JUNET の実験が開始された。JUNETは、最初は UUCP ベースのネットワークであったのだが、! を用いたソースルーティングを使用せず、BSD で実装された、sendmail の機能を利用してアドレスの書き換えを行い、現在と同じ形態のドメイン形式の、user@u-tokyo.junet という表現でのメール配送を実現した。この実現のために、mailconf という sendmail の配送ルールである sendmail.cf を生成するプログラムが作られ、配布されていた。

さて、ではこの1980年代のコンピュータネットワークはどういうものがあり、どう使われていたのかを考えてみる。当然だが、広域のコンピュータネットワークというものは存在していない。かろうじて、X.25というパケット交換網が稼働しており、一部のコンピュータ間接続に利用されていた。

1つは大型のコンピュータを、電話回線などを使って端末を接続して利用するという形態である。多くの場合、この形態が主であったと考えるのが妥当だろう。電子メールというシステムがこうした大型コンピュータ上のアプリケーションとして存在していなかったかというとそういうわけではなく、ユーザ間でメッセージ交換をする機能はあった。大型コンピュータ間を X.25 などの通信回線でつないで行われることは、主としてデータの交換であり、一部でリモートシステムへのログインが提供されることがあったが、まだバッチ処理が主体の時代であったので、バッチ処理としてリモートシステムへデータを送信するというのが中心だった。高価な大型コンピュータと高価な通信回線の組み合わせには、電子メールはおそらく優先事項ではなかったのだろう。

これに対して、中、小型のコンピュータを研究室単位などで運用し、研究を行うグループで中心的に利用が始まってきたのが、UNIX である。この当時、通信回線は非常に高価であった。電話回線にモデムを接続して、300bps とかで通信するのがせきの山で、一部の特殊な用途で、専用回線や、パケット交換網が利用されているだけであった。インターネットの原型である ARPANET は UNIX で運用が行われていたわけではない。しかし、ネットワークを介した、電子メールが実現されていた。UNIX には電話回線を用いた UUCP が実装され、最初これが使われた。その後、インターネットで TCP/IP が使われるようになる時に、UNIX に TCP/IP を実装するというプロジェクトが UC Berkeley を中心に行われ、のちの BSD に発展する。そこでUUCPと、TCP/IP のネットワーク機能を活用したアプリケーションが研究者の間で発展していった。

ネットワークに対する価値観の違いとも言えると思われるが、研究者間の情報交換を中心とするか、コンピュータリソースの交換、活用を重視するかという考え方の違いが、それぞれのシステムの利用者、開発者にあったのではないかと思われる。

こうして、電子メールは、UUCP と、TCP/IP を活用して、急速にその到達性を拡大して、1990年代を迎えることになった。

最終更新日: $Date: 2016-10-27 11:25:37+09 $

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